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【社説】正当な報道に対する「名誉毀損」の指摘について

本紙がロックファーム京都株式会社が農地法違反だと指摘したビラ配布およびウェブサイトへの記事掲載について、名誉毀損罪(刑事)や名誉毀損の不法行為(民事)が成立するのではないかとの指摘があった。田口議員などは、筆者が配布した久御山ジャーナル紙面版を「誹謗中傷ビラ」と表現している。

 

確かに本件表現行為は、法令違反の事実を摘示しているため、当該企業の社会的評価を低下させるものではある。ところが、世の中には、企業の法令違反(あるいは個人の犯罪行為)を指摘する記事などいくらでも存在する。それらが、すべて名誉毀損になるのであれば、かえって正義に反する結果となってしまう。

 

そこで、表現の自由と名誉権という2つの人権を比較衡量する必要があるところ、刑法230条の2には、①公共性の利害に関する事実であること、②専ら公益を図る目的が認められること、③摘示事実が真実であると証明されたときは、相手方の社会的評価を低下させてとしても、名誉毀損罪は成立しないとしている。これにより表現の自由と名誉権との調和が図られており、民事上の名誉毀損においても、これと同様に解されている(最小判昭和41年6月23日民集51巻5号2009頁)。

 

①の公共性とは、多くの人が感心を持つ事柄のことを指す。公職者についての事実はこれに含まれる。刑法230条の2第2項は、「公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす」とあるため、犯罪など法令違反に関する事実もこれに該当する。②の公益目的とは、主たる動機が公益目的であれば良いとされる。個人攻撃や恐喝目的での言論は許されない。③の真実性は、仮に真実に反する事実であっても、確実な資料、根拠に照らして相当な理由があった場合でも違法性は阻却される。

 

そこで本件についてみると、①については、当該企業はマスコミで頻繁に取り上げられており、社会的関心が高い企業といえる。そうした企業の法令違反を指摘することは高い公共性があると認められる。農地法違反については罰則もあるため「公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実」に該当する。法令違反の事実を住民に伝えることによって、公権力に住民の目がおよび、権限行使の懈怠や事件(事案)の握り潰しを防ぐ効果がある。さらに住民の目がおよぶことにより違法な公権力の行使(違法な取り調べや行政指導に従わないことによる不利益な取り扱い等)を予防する効果もある。公共の利害に関する事実であることは明らかである。

 

②については、表現方法が相当なものであり、当該企業の法令違反の事実や議員として当局に指導強化を要請したことを住民に知らせることは国家および社会の秩序維持という公益目的に合致するといえる。「農地法に違反しているロックファームは、けしからん」という世論を喚起すれば、同社が自主的に違法状態を解消することが期待できるわけである。法令違反の報道については、一般論として、読者の興味本位(いわば野次馬的好奇心)で対象法人の構成員の私生活上の暴露などをおこなえば格別、住民の知る権利を充足するものでもある。本件では、本紙に怒りの情報提供があったほか、京都府から開示された公文書にも「地元農家から農業委員会長、町長に苦情の電話が入っている」との記載があるため、本件法令違反は、町政の重要な課題であるといえる。されば、そうした事案を住民に知らせることは、議員として正当な行為であり、かつ上述したとおり住民の知る権利を充足するものでもある。公益目的は明らかである。

 

③については、当局に取材をおこなうとともに、情報公開請求をおこない公文書を入手し、法令違反の事実を確認しているため、真実であることの確認は取れている。100歩譲って、仮に真実でなかったとしても、当局への取材・情報公開請求をおこなっているため、真実であること誤信したことについて相当な理由があるため違法性は阻却される。

 

さらに、議員のビラ配布行為については、特定人の社会的評価を低下させたとしても、虚偽の事実を摘示したり、人身攻撃におよぶなど意見論評の域を逸脱した表現がない限り、政治活動の一環(刑法35条「正当行為」)として認められるため、違法性を認定するのは困難である(大判昭和5年9月1日刑集9巻640頁、福岡地判平成16年3月25日判時1877号112頁)。

 

よって、本件記事については適法なものであり、表現の自由として認められる権利行使なのである。何ら違法性はない。田口議員は、なぜか筆者に怒りに矛先を向けているが、矛先は法令違反をおこなっているロックファームに向けるべきである。

 

2021年7月19日

順次加筆しています 

(久御山ジャーナル主筆 芦田祐介)

 

弁護士法人ひばり法律事務所

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